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行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第二十話~(番外?Dead Data@第十話)


糊塗霧隙羽が、死んだ。


報告は閃光騨がやった。衝撃的だった。


これまで、このメンバーが減る事なんて殆ど無かった。あったとしてもそれは

ロドクの不興を買い、排除された“ユキ”ぐらい。

それが突然死んだ…殺された報告を聞く事になるなんて想像もしてなかった。

だからこそ、僕達は皆、相当混乱した。

けど、普段よく一緒に居る閃光騨の報告な上、本人の沈み様、実際傍に奴が居ない事を考えても嘘とは思い辛かった。


「チッ」


その報告に対して、ロドクは小さく舌打ちをした位で、他に特に何も言ってくる事はなかった。

まぁ、所詮僕らは彼の駒だ。これで、大きく何が変わる事もない。ただ戦力が下がる。それだけだ。

…と思いつつも背を向けたままブツブツ呟いているロドクの近くへ行き、耳を澄ます。聞こえた言葉は…


「守りに入っても攻めに入ってもどう足掻いてもかなり痛い
 一人減ると思ってなかった実質半数がやられたも同然どうするどうするどうするどうするあぁぁああぁぁぁぁああ…」


…まぁ、思った通りだったし、別段思う所はない。

仲間が減ったって意識は僕らだって無いしね。そんなんで傷心するよりは単純な状況の不利の方が怖いだろう。

“実質半数がやられた”訳だから。

…っていうのも、siwasugutikakuniの操作権は糊塗霧が握ってたから。

元々はロドクが持っていた物を糊塗霧に譲り渡し、本人が使い易い様に改造したそれは

本人以外が扱うには相当に面倒臭い様な状態になってた。事実、今の所誰も起動に成功してない。…ロドクでさえもだ。

まぁ、本気を出せば改変でいずれロドクはsiwasugutikakuniを起動する所まで持っていけるだろう。

けど、それには時間がかかる。その間の動作は全てストップ。

それがどれほど問題かって言われるとまぁ問題は無いんだけど…ロドクにとっては計画が狂うのは少しでも大問題。

正直取り越し苦労でしか無いと思うんだけどねー。糊塗霧、力はあっても頭悪いし、油断して死んだんでしょ。

これまで僕も苦戦した訳でも無い相手に他がやられるとは思えない。

って事は結局僕が出ていけばすぐ終わる話でしょ。もしくは他でもいいけどさ。

…なんだけど、ロドクは色んな被害妄想に取り憑かれてそれどころじゃないらしい。

一応皆、何かロドクから指示が出るかも知れないとその場に待機してたけども、

状況は変わらない。ずっとブツブツ言ってるだけ。じゃぁもういいかな。

どうせ僕やかてないさかなは未だに謹慎中のまま。さっさと帰って適当に暇つぶしでも…。

そんな事を思いながら入り口に向かおうとした時、突如ガァンッ!!と何か叩きつける音が響いた。

驚いて皆が振り返ると、ロドクが血走った目で立ち上がり、こちらを見ている。

その足元には大きなへこみとヒビ。今の音はアイツが足を振り下ろした音らしい。

…やっべぇ、ついにブチ切れたっぽいぞ…。


「殺せ」

「えっ」


唐突な短い指示に僕はつい、素っ頓狂な声を上げてしまう。

ギロリと真っ赤な目がこちらに一瞬向いた後、向きなおり、続ける。


「白いコテを確実に殺せ…二人共だ!!!奴らは危険だ!!
     何か分からないが危険だ!!殺せ!!殺せ殺せ殺せ!殺せぇええ!!」


…完全に錯乱しているな。

とは言え、ここまでぶっ飛んでるのは初めて見る。ので、さすがのかてないさかなも少々引き気味だ。

それでも、少し引きつり気味ながらいつもの様に笑ってかてないさかなは語りかける。


「…お言葉ですが…まだ情報も乏しい中ですよ…。我々までやられた場合それは更に危険を増す事になるのでh」

「いいから行け!!殺せ!!全員で殺せ!!行くんだ!!殺せぇええええええ!!!」


…会話になりそうにない。相当焦ってるらしいな、アイツ。

謹慎出してた癖に、それすら反故にして行けってオイオイ…。

これ以上ここに居ると何をされたか分かったもんじゃない。

すぐに僕は入り口を開け、部屋を飛び出そうとする。 

すると、溜め息を吐きながら、かてないさかながぽつりと呟いた。


「…仕方ない。と言う事で閃光騨、死忘。早速共に行きましょうか」

「はぁ!?」


余りの事に思わず大きな声が出る。

って危ない危ない。あんまりロドクが見てる前でこういう揉め事起こすとまたそれで面倒だってのに。

僕のこういう正直な所は玉に瑕だ。

とりあえず3人でさっさと部屋を出て、扉を閉めてからかてないさかなへ聞き返す。


「何言ってんの!?」

「…命令ですからね。全員行け、と。」

「いっしょにいけとはいわれてないけどね」


まさかの相手に口を挟まれ、かてないさかなが少々口ごもる。

実際その通りだ。全員で奴らを殺せとは言われたけど、一緒に行けと言われてはない。

それでも、だ。


「…ま、一緒に行くけどさ。」

「え」


そんな僕の返答にかてないさかなが大袈裟に驚いたアクションを取る。

相変わらず鬱陶しいが、そのアクション、今半分は本気で取ってた様に思えるので少し面白い。

まぁ、実際以外だと思う。普段あれだけ嫌い合ってる仲の相手がすんなり共闘受け入れたら。

って言っても…


「閃ちゃん、ヤキムシ連れてたんでしょ」

「つれてた」

「その上で糊塗霧も居て、その糊塗霧もsiwasugutikakuni連れてた。だよね。」

「そう」

「そんで、その上で糊塗霧は殺された。」

「…。」


正直、油断だろうとは思う。それこそこの二人はどちらもふとした時に詰めが甘い。

そんなのを一人で向かわせれば間違いなくすぐに殺され大幅な戦力ダウンになるのは間違いない。

ヤキムシはsiwasugutikakuniと違って生物的なコテだけども、命令は閃光騨の物しか聞かない。

だからこそ管理は大抵閃光騨が任されてる。閃光騨が抜けるとそれらの戦力も使えないに等しくなるから

こちらの戦力は8割近く居なくなるわけだ。…まぁ、僕やさかな一人の方がヤキムシ20匹より強いだろうけどね。

要するに、だ。


「万全でも危ない時は危ないからね。僕らがしっかり油断無く脇を固めてあげないと、閃ちゃんも危ないかもしれない」

「閃ちゃん、それこそ戦闘力はそう高くないもんね。」

「うん…。」


身体的な能力も、僕らに比べて子供の閃光騨は低い。ウィルス持ちで底上げされているとしてもダントツビリ。

それを一人にするのは正直上策とは思えない。だから…


「成程ね。嫌いな私と組んででも、これ以上の戦力ダウンを避けたい、そう仰る訳、ですか…」

「まぁね。糊塗霧だって別に好きじゃなかったけどさ、居ないのは寂しいじゃん。お前もな」

「おやおや…」


…これは嘘だ。正直どっちでもいい。

ただ、減れば減るほどああやってロドクが癇癪起こすとしたら相当面倒くさい。それだけだ。


「ロドクの言う、理想の自分の為の国?なんかは正直興味ないよ僕も」

「けど、暇つぶしがなくなって退屈になる位ならちゃんとやるよ。」


そう言うとかてないさかなはくっく、と小さく笑った。


「…所詮駒か…」

「え?」


よく聞き取れなかったから聞き返すも、今度はにっこり笑ったかてないさかなが話し出す。


「ま、大まかは私も賛成ですよ。私も退屈は嫌いですから。
    ってな訳で!早速ですが…奴らの腕試し、と行きましょう!」


そう言って元気にスキップで歩いて行くかてないさかな。

面倒くさいけども、まぁさっさと行動に移った方がいいだろうし、と僕らもそれにゆっくり着いて行った。


「…いや腕試しじゃないって。本気で殺しに行って終わりにするんでしょー」

「いやいやどちらでも同じですよー。
  どちらが殺されるとも知れないですけども、相手にとっては腕試しかもしれないし?」

「なんじゃそりゃ」


意味不明なかてないさかなの言葉に若干引っかかりを覚えつつも

どうせアイツの言う事だしな、と適当に流す。

そう言えば、途中からずっと閃光騨は黙ったままだけど大丈夫か?

また妙な事したりしないといいけどな…。これだから子供ってのは面倒臭い。

どうせ本当は戦いに行くのもイヤなんだろうなぁ。一度負けてるんだし。















「…やっぱ、復活はしなさそうだったね」

「…あぁ。」


私達はあの後、ある程度の間奴の死体(…と言ってもほぼミンチだが)を観察していた。

調べられる事は調べようとその破片を採取しようとしたりもしたが

結局実行には至らなかったし、見続けてもそこからまた復活するような兆候は無かった。

身体がウィルスで構成されている…という前情報から、

復活まではせずともその最後っ屁とばかりに死骸から出て来たウィルスが攻撃…なんて事も考えていたが

奴の死体はその後、粉々だったものが更に細かい粒子となって消滅した。

ゾンビゲームとかと同じ理屈だろうか?頭を撃ち抜いたのが良かったのか、問題なく奴を倒す事は出来たらしい。

…まぁ、あいつ頭しかないコテだったから頭以外に当たる事はないんだがな。


「…って言っても元々は結局ロドクが一から作ったコテな訳だから…時間が経ったら出てくる事は有り得るよね」

「だな。それでパワーアップして現れた、なんてなったらもう洒落にならない。油断は出来ないな」


そんな事を言いながら、私は乾パンを齧る。…味気ないがほっとする。もう食べれないかも知れなかったからな。

そう、私達は結局一度隠れ家に戻って来ていた。

これまでの予測はほぼほぼ当たっていたから、恐らくこれもー、と恐る恐る戻ってみた所

特に手が加えられた様子も、何かが潜んでいる気配も感じなかった為、入り込んで食事を摂る事にした。

一応、今回やった事は恐らく相手に相当な痛手を負わせている。

その状況でちゃんとした隠れ家を確保しないままに彷徨くのはかなり危険だろうからな。

少しの間、この隠れ家で待機し、ある程度の次の潜伏場所の当たりを付けたら移動する。

そして、体勢が整ったら糊塗霧と同じく、不意打ちや相手の意表をついた戦闘で一人だけでも撃破する…。

それが現状最善と我々は結論付け、その作戦の為に今、体力を付けるべくまず食事だったのだ。

さて、問題は非常に暇だと言う事位な訳だが…。

ちらり、と入り口の方を見る。探索に出掛けたい…と思っての行動だが

それを見た彼女がすぐに首を横に振る。…分かっているよ。

今の状況で探索に出て、奴らのうちの一人にでも出会ったらまずい事になる。

出るとしてもある程度経ってから。奴らの目をかいくぐらなければならないのだからこれは必要だ。

と言っても、ここにあるパソコンのチャットから見ても生存者は我々の他にいないのは明らかだ。

建物はほぼ全てが単なる廃墟でありそこに何も残されてはいないだろう。

唯一残されていた喫茶は以前の戦闘時に燃やされた為、そこからの補給はもう期待出来ないし

他にそう言う場があったとして、使えるかも分からない。その為にリスクを負うのは全く割に合わないと言う物だ。

そうそう、例のチャットの参加人数。これも一応確認し続けてる訳だが…

今の所“49”に減ったままで変動がない。そこから考えても糊塗霧は復活していないだろう。

そして、代わりの補充も用意されていない。大体私達の考えは合っていたらしい。

…ただ、siwasugutikakuni達は未だカウントされているのが恐ろしいな。あの場で動きを止めていたが…。

奴らは破壊されるまでは動けるのかもしれない。だとするとまた戦闘になる。

どれほどの力を持っているかは分からないが、ただ、奴らは人格が無い事が怖い。

油断や恐れ、混乱と言った状態に陥らないのは正直我々が相手するロドク一味の中では最悪だろう。

正直単純なスペックの差で勝ち目が薄いのだから、突ける弱点であるそれらの感情はかなり大きいのだ。

それが無い相手となると単純な力での戦闘になる。…相手は数も多い。一番の懸念となりそうだな。

やる事が無いとは言ったがこの通り、作戦を立てたりは必要だ。

だがな、考えるよりも動きたい性分らしい私としては暇でたまらない。

ふと、部屋のパソコンに目が行く。そうだ、そう言えばこれはネットに繋がっていたんだったな…。


「ちょっと調べ物にパソコン使っても大丈夫か?」

「いいけど…何調べるの?この街の事ならYahoo知恵袋に聞いても意味ないよ」

「そりゃ分かってるさ。」


そう言いつつも私はこの街…チャットの事を検索してみる。

どうせ気晴らし程度だからな。本当に何か情報を得ようとは思っていないさ。

だから今の行動もただのおふざけだったのだが…予想外のものが目に入った。



「…ドクイロネットワーク?」

「へー。そんなのあったんだ。それは私も知らなかったよ」


それは、恐らくこの街の元となったチャットのSNSサイト。

彼女はそれを興味深げに遠くから見ていたが、やがて私の隣に座り一緒に確認し始めた。

…まぁ、ネットに情報はないと端から思ってたくらいだからな…。

彼女が知らないのも無理はないか。お気に入りにも入ってなかったしな。

しかしこれ、よく確認してみたら物は元は一応、そのチャットサイトに関するSNSらしいが

ここに出てる物はそれとは違う独自のものに変わってるらしいな。アクセスもこの世界からしか出来まい。

だとしたら、もしかしたらこの街がこうなったその日の情報や、生存者の手記程度の物なら見つかるかもしれない。

少し期待しつつ、ログイン画面を開いてみる。

すると、元々ブラウザに記憶されていたらしいIDとパスワードが入力状態で表示された。

…これはもしかして…。


「…このパソコンの持ち主…彼のか?」

「らしいね…。うーん、でも全然話には聞いてないよ?来てた事自体知らないし…。私が居ない時に触ってたのかも」


どうせ新しくアカウントを作るのも面倒だし、そこから妙な事になっても面倒だ。

なのでそのままその“彼”…以前ちらりと名前が出た、パソコンの持ち主のアカウントをそのまま使わせて貰う事にする。

もしかしたら入力済みなのはトラップでわざと間違ったパスで記憶させてたり…とかも考えたが問題なくログインは済んだ。

表示される彼のページ、そしてそこに書かれた彼の名前。“心金柑”

…?何となく聞いた事がある様な気もするがまぁすぐ分かる物でもないだろう。私の過去の記憶は無いしな。

…しかし、覚えがある?としたら…やはり私は元はここの住人。

ここに居たらしい彼と彼女とも面識があったのかもしれないな。

一応、心とリンクが繋がってるココに居た元の住人達のプロフィール何かも辿ってみたが、

大体同じ日付かそこから数日居ないで更新が止まっている。

この日付が恐らく、街で事件が起こった日。そして、そこから数日で生き残った人々も…そういう事だろう。

もしかしたら何らか情報が?と色んな所を見ていくが、めぼしい物は無さそうだ。

やはり基本は突如ロドクが力を持ち、街を破壊し尽くし、どうしてこうなったのか分からぬままに無念の内に…。

そう言う形の情報しか読み解ける物は無かった。

そこで、一旦ページを戻る。心金柑のページに情報がないかを探るのだ。

しかし、これもまたあまり何もなさそうだ、何せプロフィールは簡単に一言だけ。

他のどこにもリンクが繋がってたりもしないのでここにあるのは本当にプロフィールページのみなのだろう。

宛が外れたか…。そう思い、ブラウザを閉じようとすると、彼女が止めた。


「待って。ここ、もしかして日記あるんじゃない?」

「何?」


そう言われよく見ると確かに日記がある。

…すまん、それ他人の日記が更新された時に情報が上がってくる奴と勘違いしてた。

どうやら本人の更新情報も表示する形式らしいな、このSNSでは。

そんな訳で改めて日記を確認する。…結構な件数があるな。それも割とマメに書いてある。日付が殆ど飛んでない。

しかしそれだけに情報は膨大だ。この中から必要な情報を抜き出すのは相当骨が折れるな…。

…勿論、心のページも最新の日記を最後に更新が途絶えている。

その日付を見て、彼女は小さく「…死ぬ前日だぁ…。ずっと…ボロボロだった癖に…よく書いてたよこんなの…」

と悲しげに漏らした。まぁ、そうだな。余裕無かっただろうにこんな…。

しかし、だとすればここにワザワザ何らか書き残した可能性はある。やはり確認が必要だな。

うーん…しかしやっぱり数が多いとあまり積極的になれるものではないな…。

私はざっと一文を読んでは、一旦休憩を繰り返す。うん、やはり辛い。

幾つか読んだ所でふと、ある事に気付く。

この日記…一部のタイトルに☆が入っているな。

そういうテンションの高い人だったのかと思ってたが、

よく見ると同じ様な雰囲気のタイトルでも☆がある物と無いものがある。

もしや…?と開いてみるとビンゴだ。この街の状況や情報が書いてある記事に辿り着いた。

どうやら、後に読まれる事を想定して事前に準備していたらしい。

心金柑という男は中々にやり手だな…。用意周到にここまで考えてあるとは。

一番古い日記までページを進めてから、そこから順に読んでいこうと思う。

えーっと…星の付いた最初の日記がこれか。


【×月○日・・・。ロドクが堕ちた。
 誰かがやるとは思ったけどロドクか、厄介すぎる。街はすぐに最悪の展開を迎えた】


日記には箇条書きで何が起こったか、の詳細な内容が書いてあった。

…まるで情景が浮かんでくるかの様だな。いや、寧ろこれは私の記憶か…?

やはりあの時私はここに居たんだろうか…。

…記憶を取り戻すのも重要だが、今はロドクを倒す事こそ一番の目的だ。

なので一旦この日記は読み飛ばす事にする。そちらの手がかりは特には無さそうだしな。

…多少気になる事は書いてあるが、そこは無関係だろう。

誰かがやると思ってた、ってこの街どんだけ治安悪いんだ…。


【×月▲日・・・。ロドクも未だにねっとわーくにアクセスしてると判明。
          マメに日記を付けているようなので、フレンドに登録する。】


その文言に二人して驚き、すぐに心のフレンドリストを確認する。

そこには確かに“ロドク”の文字があった。

…いや、さっきも目に入っては居た。けど、まさか本人では無いだろう、と流したのだ。

思っても見なかった情報源になったSNS。すぐにもロドクの日記を読みたい所だがまだだ。

彼の日記に他にもまだ何らか情報があるかもしれない。そもそも既にロドクの日記が読めない可能性もある。

とにかくまずはこっちの日記を全て読む事だ。それから考えよう。


【×月■日・・・。フレンド解除もアクセス禁止もされないので、
ロドクの日記を読み続けているが、アイツが何を考えているかよく判らない。
   念の為、俺はアクセスは禁止にしてあるけど…何かやってくる様子はない】


…これが本当なら未だにロドクの日記を読む事は可能そうだな…。

しかし、彼は随分と無茶をやる男だったんだな…。まさか敵の中核、ボスをSNSでフレンド登録するとは。

彼女は彼女でそんな彼をよく知っているから言葉少ななのか、我慢できずに漏らしたのか

「何やってんのぉ…馬鹿じゃないの…」と力なく言葉を吐いた。

…とりあえず、日記を読み進めていこう。


【×月●日・・・。奴のコテは具現化する前からある程度奴自身情報を出していたので知っていたが…
      奴の傍に見覚えのないコテが2人居た。奴らはこの事件の前後で消息を絶ったのだが…
     …奴らは何故突然消えたのか?もしかしたらこの事件の事も含め何かカギを握っているかも知れない】


見覚えのないコテが二人居て、突如消息を絶った?

…非常に引っかかるな。そのコテ、一体どいつの事だ?あれだけコテが居たら特定は難しいな…。

だが、人格を持たずに居る2種のコテ…ヤキムシにsiwasugutikakuni。あいつらの事だろうか?

突然に消えてたのが人格を消す為で、今は人格が消えたから使い潰しの出来るコテとなっている。

…そう思って彼女を尋ねてみたが首を振る。

この二人はこの事件当時から居たらしいし関係無さそうだ、との事。

だとしたら二人の消えたコテとは一体…?

続けて日記を読んでいく。ひたすら考察してるだけではどうせ分からない事だろうからな。


【×月◎日・・・。白いコテが居た。やはり見覚えがない。とりあえず敵ではないようなので匿う】


これは…恐らくは彼女の事だろうな。

そう思って確認を取ると確かにその日、彼と出会ったと証言した。

やはり他のコテから見ても異質な扱いなんだな、我々と言うのは。

実はロドクから見てだけ、異質な物なのではとも思っていたがな。否定されてしまった。

さて、次を読んでいく。不要と思った所はどんどん飛ばすので読み進めるペースがどんどん上がっていくな。


【×月Σ日・・・。白いコテに事情を聞こうにも何も覚えてない、記憶喪失だとの事。
  PCで調べようとすると、Dead Dataと表示された。なんだこの単語。そのまま白いコテの呼称とする】


なるほど、ここでやっと我々の状態、“Dead Data”が初めて出て来るんだな。

しかし、まさかこの単語がパソコンで解析した結果だったとはな…。

そもそも我々の身体はパソコンで解析出来る物だったのか。結局我々はデータを媒体とした精神体とかなんだな…。

この後、延々解析の結果やその他調べた事など大体彼女が言っていた事と符合する情報が書き連ねてあった。

…恐らくはもし私の身体も調べたなら、同じ結果が出てくるんだろう。

…次は一体どういう日記となるんだ?


【×月§日・・・。多分コイツの正体が判った。
  けど、それを伝えて敵になっても困る。ここにも書かない事にする。
          もしかしたら、もう一人出てくるんじゃないかと思う】


…心金柑と言う男は我々の正体にまで迫っていたのか。

だが、何故それを書き残さなかったんだろうか?伝えて敵となったら困る…?

まさか、我々はとんでもない力を秘めて居るのか?例えばそれこそロドクの様な、ウィルスだとか?

…まさかな。

しかし、彼の予想は当たっている。“もう一人出て来るんじゃないか”それは恐らく私のこと。

白いコテ、“Dead Data”のその正体。そしてそれらが二人いると予測が付く理由。

あるとしたらそれは、もしかして…。

………。

さて、☆の付いた日記はどうやら次で最後のようだ。日付は…亡くなる日の数日前程。

既に彼は病床に居てボロボロだったと彼女がさっきも言っていた。それでも、彼は日記を書き続けていた。

そこに一体、何が残されているのか。

…少し怖くもあるが、見るしか無い。ココまで来たんだ。


【×月¶日・・・。ウィルス…ロドクへの対抗策が完成した。
 が、既にもう使う気力がない。彼女に使わせようにも状況が悪い。
   彼女ではウィルスが無くとも確実に奴らに殺される。力が足りない。
  だから、無謀にも彼女が奴らに挑まぬ様、
 アレと共にパスワードを付け、これは封印する事にする。
 パスワードは、彼…もう一人のいずれ来るであろうDead Dataの元の名前にしよう。
 多分、それなら万が一ロドクにバレても開けられないし、
  アイツの事だから開けられないんじゃどうしようもない、
  とパソコンごと放置すると思う。過去の遺産とか何とかいいつつ。
  アイツはそう言う奴だったからな。そこが今でも変わってないと信じている。】


……日記を読み終えた私は、“バックアップ”と銘打たれたファイルを再び開こうとした。

当然、ファイルはパスワードを要求し、ただでは開かない。

そして、そのパスワードは…記憶をなくす前に私の名…。

闇雲に、思いつく限り単語を入力したりもしてみるが開かない。何故だ、何故私の名前なんだ?

私はまだその名前が分からない。一体どういう理由なんだ?どうして、私なんだ!!

苛立ちからキーボードを叩く指に力が入る。そんな私の手を止め、彼女が再び日記のウィンドウを開く。


「何だ!今“俺”は…!」

「…まだ、日記に続きがあったと思う。」

「え…」


そう言うと彼女は無言でウィンドウをスクロールする。確かに、日記はまだ続いていた。

…それも、その文章はどうやら私に宛てた物であった。

…意を決して、日記を再び読み進める。そこに恐らく答えがあるのだから。


【~多分ここを見つける君へ~

 例のファイルを開くパスワードの名を持つ者は、果たしてどちらの味方になるのか分からない。
 だからこそ、無闇に開かせる訳にはいかないから彼の名を使った。誰も開けず破壊される事無く放置されると見越して。
 ココを見つけるのが誰になるかは分からないし、そのパスワードの彼がもし味方だとしてもあっさり奴らに負けるかも知れない。
 このファイルは、彼が記憶を取り戻し、味方であり、奴らを倒す力を持っていると確信した時に開いて欲しい。
 中身はウィルスの特効薬の様な物と、タイトルの物。まぁ細かくは後述するが
 この特効薬はロドクにしか効かない。元を断つ為の物だからだ。だから必ずロドクに使う事。
 そして、更に条件がある。ロドクだけ倒しても、他のコテを媒介にロドクは復活する事が出来るのだ。
 つまり、特効薬を使うには全てのコテを倒した上でロドクを倒して使わなければならない。
 相当な困難になると思う。出来るならもっと強力な物や君たちの力となる物もプログラミングしてやりたかったが
 残念ながら時間が足りなかった。この文章を隠れて書いているのは出来るだけ情報を隠す為だ。
 決して彼女を信用していなかった訳ではない事を出来れば伝えてやってほしい。
 そして…できれば、彼女を守って欲しい。この街と共に。再びこの街に平和を…             】


ふぅ、と小さく溜息が漏れる。

そして、静かに私はパソコンの電源を落とし、彼女を見た。

押し黙ったままの彼女は目があるであろう位置に涙を溜め、画面を見つめたまま動かない。

そんな彼女に、私は小さく声を掛ける。


「…なぁ、思い出せるか。君の名前」


言葉にせず、首を振るだけで答える彼女。

当然だろう。まだ、確信に至る物は何も見つけていない。

私も未だ自分の記憶は取り戻して居ないのに彼女が取り戻すのは難しいだろう。

ただ、断片的ながら幾らか記憶の欠片の様な物は現れた気がする。

これがどういった記憶なのかまでは特定する程ではないが。

…圧倒的にピースが足りない。まだ、欠けが多すぎる。

だが、それさえ揃えば恐らく…我々はもう、この世界を救う事が出来る筈だ。


「…行こう。探し出さなければならない。勿論、見つからないようにだが…」


果てしなく遠かった我々の目的は、気づけばまだ遠いものの目標が見えるまでには届いた。

思ったより、この戦いは早く終わりそうだ。そんな予感がする。

だからか、彼女もこれまでと違い、私に着いて来た。

止めるでもなく、ただ無言で立ち上がり、隠れ家を出て、マンホールの入り口を目指す。


どこで何を探すべきなのか。それはまだ分からない。

だけど、探すべきなんだ。

私達の記憶…本当の自分を取り戻す事がこの戦いの鍵になるのだから。



つづく。


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